歯医者奮闘記②
口内炎の治療が完了してから1年後、
すっかり忘れ去られた親知らずは、グングンと伸び続けた。
親知らずが生えたことがある人なら分かってくれると思うのだが、
こいつはあくまでもイレギュラーな歯。
本来の正当な歯達からしても、めちゃくちゃ邪魔な存在。
ギュウギュウに詰められた奥の歯のため、とにかく食べ物が詰まる。
その都度フロスを使いながらゴリゴリと取るのだが、
歯茎まで傷つけてしまい、その後数時間は痛みが続くような状態に。
そこで私は渋々、再度歯医者へ通うことにした。
しかし問題が一つある。
実は以前口内炎の治療をした歯医者の最終日、
私は予約を後回しにし、バックレ同然で姿を消した。
私の面倒くさがり病が発症していたのだ。
そのツケが、一年越しにまわってきた。
どうしても元の医者には行きづらい。
というかどんな顔して会えばいいのか分からない。
「お忙しかったんですか?」なんて聞かれたら、
「そうっすね…ハハッ…」とあからさまに嘘をついている顔をする自信しかない。
そこで近隣の歯医者を再度探すことにしたのだが、
調べてみると、なんと家から徒歩3分の位置に歯医者があるではないか!
え!ちか!最初からこっち通っておけば良かったじゃーん!!!
予想外の近隣歯医者の発見に、
行きたくないと渋っていたことも忘れ、さっそく予約。
『親知らずまわりが痛むから歯医者に行く』という、
どう考えても気分が萎える予定だというのに、
ニコニコのルンルンで新たな歯医者へと向かった。
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いざ着くと、そこは「ボク町医者です!」というような、
こじんまりとした、住宅街に溶け込む歯科。
どうやら助手さんもおらず、先生が一人で切り盛りしているようだ。
「見せてね~、あ~親知らず結構伸びちゃってるね」と、
なかなかフレンドリーに診察してもらい、
内心、めちゃくちゃ安心していた。
「そうなんです~!もう邪魔で、抜いてもらってもいいですか?」
とお願いすると、ニコニコ先生は表情を変えず、
「う~ん、抜いてあげたいけど、今歯茎がちょっと腫れててね。
これ治まってからじゃないと痛いよ」
と人の歯茎をつついてきた。
親知らずを抜いたことのない私からすれば、
そういうものなのかと、「じゃあ腫れが治まってからまた来ればいいですかね?」と聞くと、
先生からある提案が。
「これはね、歯磨きの仕方が良くないんだと思う。ちょっと教えてあげるよ」
歯磨きの仕方?え、今?
と言うわけにもいかず、
むしろ大人になってから中々知れる事じゃないしいいか!と、
まさかの『親知らず抜歯』から『歯磨き講習』へと変わった。
手鏡を片手にまずブラシの良し悪しから始まり、
手鏡を持つ手の角度、歯ブラシを持つ角度、ブラシを往復させる回数…
いや覚えることが多すぎる。
2mmでも角度がズレようものなら、すかさず先生から指摘が飛ぶ。
「こらこら、持ち方が違うよ」
「あー惜しいねぇ」
「もっと弱く、いや弱すぎるからもっと強めに」
都度口に歯ブラシを入れながら「ファイ!」と返事をしつつも、
どうにかきっかり30分、無事熱血?指導が終わった。
帰るころには、もうあのルンルンな私は消えていた。
何度もこすった痛む歯茎を抑えながら、
「じゃあこれ続けて、歯茎の調子が良さそうだったらまた来ますね…」
と歯医者をあとにしようとしたところ、
「じゃあ来週でいいかな?また歯磨きチェックして歯茎見ようね」と、
速攻で次回の予約を入れられた。
あ、いや、ちょっと、予定を確認して…と声を出そうとしたが、
「今回は治療してないし無料でいいよ、じゃあ頑張ってね!またね!」
と、あれよあれよと返されてしまった。
正直もう別の歯医者を探そうとひっそり考えていたのだが、
「まあ無料だったしいいか!」
と、すっかり丸め込まれた。
人は『無料』『タダ』『サービス』という言葉を前に、
思考が停止するのかもしれない。
続く
ria

