口内炎の治療が完了してから1年後、

すっかり忘れ去られた親知らずは、グングンと伸び続けた。

親知らずが生えたことがある人なら分かってくれると思うのだが、

こいつはあくまでもイレギュラーな歯。

本来の正当な歯達からしても、めちゃくちゃ邪魔な存在。

ギュウギュウに詰められた奥の歯のため、とにかく食べ物が詰まる。

その都度フロスを使いながらゴリゴリと取るのだが、

歯茎まで傷つけてしまい、その後数時間は痛みが続くような状態に。

そこで私は渋々、再度歯医者へ通うことにした。

しかし問題が一つある。

実は以前口内炎の治療をした歯医者の最終日、

私は予約を後回しにし、バックレ同然で姿を消した。

私の面倒くさがり病が発症していたのだ。

そのツケが、一年越しにまわってきた。

どうしても元の医者には行きづらい。

というかどんな顔して会えばいいのか分からない。

「お忙しかったんですか?」なんて聞かれたら、

「そうっすね…ハハッ…」とあからさまに嘘をついている顔をする自信しかない。

そこで近隣の歯医者を再度探すことにしたのだが、

調べてみると、なんと家から徒歩3分の位置に歯医者があるではないか!

え!ちか!最初からこっち通っておけば良かったじゃーん!!!

予想外の近隣歯医者の発見に、

行きたくないと渋っていたことも忘れ、さっそく予約。

『親知らずまわりが痛むから歯医者に行く』という、

どう考えても気分が萎える予定だというのに、

ニコニコのルンルンで新たな歯医者へと向かった。

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いざ着くと、そこは「ボク町医者です!」というような、

こじんまりとした、住宅街に溶け込む歯科。

どうやら助手さんもおらず、先生が一人で切り盛りしているようだ。

「見せてね~、あ~親知らず結構伸びちゃってるね」と、

なかなかフレンドリーに診察してもらい、

内心、めちゃくちゃ安心していた。

「そうなんです~!もう邪魔で、抜いてもらってもいいですか?」

とお願いすると、ニコニコ先生は表情を変えず、

「う~ん、抜いてあげたいけど、今歯茎がちょっと腫れててね。

これ治まってからじゃないと痛いよ」

と人の歯茎をつついてきた。

親知らずを抜いたことのない私からすれば、

そういうものなのかと、「じゃあ腫れが治まってからまた来ればいいですかね?」と聞くと、

先生からある提案が。

「これはね、歯磨きの仕方が良くないんだと思う。ちょっと教えてあげるよ」

歯磨きの仕方?え、今?

と言うわけにもいかず、

むしろ大人になってから中々知れる事じゃないしいいか!と、

まさかの『親知らず抜歯』から『歯磨き講習』へと変わった。

手鏡を片手にまずブラシの良し悪しから始まり、

手鏡を持つ手の角度、歯ブラシを持つ角度、ブラシを往復させる回数…

いや覚えることが多すぎる。

2mmでも角度がズレようものなら、すかさず先生から指摘が飛ぶ。

「こらこら、持ち方が違うよ」

「あー惜しいねぇ」

「もっと弱く、いや弱すぎるからもっと強めに」

都度口に歯ブラシを入れながら「ファイ!」と返事をしつつも、

どうにかきっかり30分、無事熱血?指導が終わった。

帰るころには、もうあのルンルンな私は消えていた。

何度もこすった痛む歯茎を抑えながら、

「じゃあこれ続けて、歯茎の調子が良さそうだったらまた来ますね…」

と歯医者をあとにしようとしたところ、

「じゃあ来週でいいかな?また歯磨きチェックして歯茎見ようね」と、

速攻で次回の予約を入れられた。

あ、いや、ちょっと、予定を確認して…と声を出そうとしたが、

「今回は治療してないし無料でいいよ、じゃあ頑張ってね!またね!」

と、あれよあれよと返されてしまった。

正直もう別の歯医者を探そうとひっそり考えていたのだが、

「まあ無料だったしいいか!」

と、すっかり丸め込まれた。

人は『無料』『タダ』『サービス』という言葉を前に、

思考が停止するのかもしれない。

続く

ria